浜ちりめん
京友禅・加賀友禅などの 高級呉服に欠かせない 最高の「キャンバス」 滋賀県長浜市の伝統地場産業「浜ちりめん」は、100%生糸を使用した、日本でも最高級の絹織物です。主に着物用の白生地として用いられるため、美しく染め上がり、繊細な絵柄を引き立てる最高の“キャンバス”となるよう、長い年月の中、改良を重ねながら受け継がれてきました。いまや京友禅や加賀友禅には欠かせない存在で、その歴史は宝暦元年(1751年)にさかのぼると言われています。
浜ちりめんの最大の特徴は、生地の表面にさざなみのように広がる繊細なシボ(凹凸のある立体感)です。このシボが生地に美しい光沢となめらかな肌触りを与え、さらには、染色の際、生地の色に深みを出すといった効果もあります。 さざなみのような 「シボ」が特徴
生糸一本から織物に なるまでを一貫生産 浜ちりめんの製造工程は、他産地のそれとは大きく異なります。生糸1本から織物になるまで、精練の共同事業を除くすべての工程が、自社の一貫作業なのです。つまり、それぞれの生産者が「生地をどんな風に染めるのか」「どんな用途に用いるのか」といった状況に合わせ、使用する生糸1本1本の吟味から、よこ糸の撚り回数、製造管理などの細かい部分までを調整したうえで生地をつくります。生地は数十もの工程を経ておよそ50日かけて完成されます。一つひとつの作業を熟練した職人が手作業で行い、全工程を厳しいチェックのもと一貫生産することで、生産者たちは品質を保ち続けてきました。
長浜が絹産業で栄えてきた要因の一つは、恵まれた自然環境です。この地域の工場には、霊峰伊吹山の雪解け水による地下水がこんこんと湧き出る井戸があります。地下水は主によこ糸に強い撚りをかける工程で使用されますが、水温が年間を通して一定であるおかげで、常に高い品質を保てます。また、長浜は湖・山・川に囲まれているため織物産業に適した湿度があるほか、絹織物の精練加工に適する軟水が琵琶湖から無尽蔵に得られます。浜ちりめんと近江湖北の水は、切っても切れない関係なのです。 品質の決め手は「水」
手描友禅
世界を感嘆させる、 繊細な色柄 一つの布の中に多彩な色彩をちりばめた手描友禅は、江戸中期に盛んになった模様染めです。これほど繊細かつ緻密な柄を染める技術は世界的に見ても珍しいものですが、これは「糸目」と呼ばれる糊を使った輪郭線によって可能となっています。

手描友禅の制作は、いずれも神経を使う細かい作業からなります。
※手描友禅の制作工程や使用する道具は工房により様々ですが、ここではブラジャーの装飾用パーツを染色した際の手順を紹介していきます。

1.デザイン:
雛形と呼ばれる紙にデザイン画を描き、構成を考える。
2.下絵:
実際の寸法に合わせた紙に原寸大の下絵を描く。
3.糸目:
下絵の上に生地を重ね、専用の糊を細く絞り出しながら下絵をなぞる。 
4.地入れ:
染めムラやにじみの防止のため、生地全体に「ふのり」(海藻の一種)の溶液を塗る。
5.彩色:
原色となる染料5~6色を混ぜ合わせながら好きな色を作り、模様部分を「彩色(染色)」する。
6.蝋伏せ:
地色を染めるために、「彩色」した部分に、高温に熱した蝋を塗り防染を施す。
7.引染め:
染料を使って、地色の「引染め」を行う。
8.水元:
染料が乾いたら、ボイラー設備のある着物専門の工場などで生地を蒸し、その後に、定着しきらなかった余分な染料や蠟を洗い流す。
9.湯のし:
生地に熱い蒸気を当てながらまっすぐに伸ばす。
9.地直し:
できあがりを確認し、必要に応じて染色補正を行う。
いくつもの工程を経ながら、 色という生命を吹き込む
辻が花
桃山に咲いた、 はかなき「幻の花」 「辻が花」は、室町時代末期から江戸時代初期にかけて一世を風靡し、そして消えていった、染色技法です。その特徴は、絞り染めを基調に、描き絵・摺箔・刺繍などを併用した手法にあります。安土桃山時代に最盛期を迎え、豪華絢爛たる桃山文化の一翼を担いました。しかし、江戸時代中期に糊で防染する「友禅」の技法が確立するとともに、手間のかかる「辻が花」の技法は、急速に衰退し、失われていきました。
「辻が花」の語源には諸説ありますが、一説では、「辻(十字路、街頭)に咲く花」ともいわれています。争いが続いた時代、道端にはかなく咲き、そして散っていく花々に、美しさを感じ、その様に自分を重ねていた当時の人々の姿が感じ取れます。同じ時代に隆盛した茶の湯とも通じる感性です。 日常にある 美しさに気づく心
絵絞庵 「絵絞庵」( えしぼりあん) は、京都・洛北の、比叡山を望む場所にある福村廣利( 日本工芸会正会員)・健、父子の工房です。豊かな自然と水脈に恵まれた地で、下絵より染め上がりまで一つ一つ丁寧な仕事を心がけ、先人の技術を活かしながら、安土桃山時代にはないより細やかな「現代の辻が花」を創っています。KASANEの「辻が花」商品は、「絵絞庵」の協力のもと作成しています。

辻が花の基本は絞り染めによる染め分けです。絞りの圧力によって染料が入ることを防ぐ防染の繰り返しによって、色の違い・絵模様をあらわします。ここでは、昔ながらの手法を用いている「絵絞庵」の工法を紹介します。

1.下絵:
紙に描いた下絵を、青花液(水で消える染料)で生地に写します。
2.糸入れ:
下絵に沿って生地を糸で縫います。細かく縫うほど柄がきれいにあがります。糸の跡が柄になります。
3.絞る:
縫い締め絞り・小さな鹿の子絞り・大きな模様のときは巻上げ絞り・竹皮絞りを、染め分けには桶絞りなど、得たい効果によって絞り方を使い分けます。一本一本糸を引っ張る事によって模様や色の違いを表現していきます。
4.浸け染め:
絞った生地を染料液の中に浸けます。この時あまり長時間浸けすぎると、絞った部分にまで染料が入ってしまいますし、短すぎるとほとんど染料が入りません。違う色を染めるごとに絞りなおして、防染・浸染を繰り返します。
5.ほどく:
全ての色を染め終えたら糸をほどきます。糸をほどくまで、柄がどうなっているかは分かりません。生地を切らないように一本一本気をつけてほどきます。
6.蒸し:
色を定着させるため生地を蒸します。
7.ゆのし:
しわになった生地を元の状態に戻します。
8.墨描き:
白抜きにした部分に墨描きを加えて完成です。

絞り染めはあくまで絞りの圧力によって色を染め分ける染色技法ですので、絞りによる生地の立体感を目的としたものではなく、結果的に生地に立体感が残ります。

染色工法について
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